基数の理論
これは,数学カフェ基礎論回の 予習回第6回の講演内容のメモです.
このセミナーの最終目標は連続体仮説がZFCと独立であることの証明です。 今回は連続体仮説が何を主張しているかを理解することを目指して解説します.
連続体仮説の主張は以下のようなものでした.
Statement(連続体仮説) |
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ここで出てくる は基数です. 基数は順序数であり,また加法,乗法,指数関数が定義できます. 上で現れる は基数 と2の定める指数関数です.
さて,任意の整列集合はあるただひとつの順序集合と順序同型であり,その意味で順序数は整列集合としての代表元を定めたものでした. 基数は整列集合ではなく,集合の代表元を定めたものとなります. 集合の代表元を定めるには集合としての構造が等しいことを定義する必要があります. とはいえ集合には他に構造もないので全単射が存在することで集合として"等しい"ことを定めます. 集合はその集合の濃度を取るという操作によって,集合の代表元として基数を定めることになります. 基数は順序数なので.集合の大小関係を記述するためにも使えます. 一方で順序同型の場合は順序数の大小がそのまま、順序同型の有無に影響していましたが、 集合として考える場合は、順序数としては,真に大きい順序数であっても集合として同型になる場合があります。 そこで、我々は集合として同型になる順序数の中で最小なものとして、基数を定義します.
今回は基数と集合の関係を述べ,その基数との関係が理解するために必要な集合上の操作と 連続体仮説を理解するのに必要な基数の定義や操作を説明します. 具体的には
- 全ての集合が整列順序づけ可能であること
- 集合の対等性を定義し,集合の対等生に関するベルンシュタインの定理、カントールの定理を証明する
- 基数を順序数の対等類の最小要素として定義する
- 基数の加法と乗法を定義し,性質を調べる.
- 基数の指数関数を定義し,連続体仮説の主張を述べる.
実際に独立性証明のためには連続体仮説の主張を理解するだけでなく,絶対性や強制法等の議論が必要です.そこは本番に期待したいと思います。
全ての集合が整列順序づけ可能であること
全ての集合が整列順序づけ可能であることはツェルメロの定理と呼ばれています。 この章ではその定理の証明をします。 また、今までは選択公理はあまり仮定されていませんでしたが、 この章では選択公理を使います
そのため、最初に選択公理について確認し、我々が仮定した選択公理から選択関数が存在すること およびその時に使われる商集合について言及したいと思います.
Definition |
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集合上の関係が 同値関係 であるとは,以下を満たすことである. 1) 2) 3) |
同値関係の重要なところは商集合が定義できるところです
Definition |
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上の同値関係に対し、は集合となり、それを 商集合 と呼ぶ |
上の定義には同値関係が必要ありません。関係であることと冪集合公理と分出公理だけから集合の存在を示すことができます. しかし,同値関係による商集合には以下が成りつという特徴があります.
商集合
は元の集合
の分割になっている。すなわち、以下が成り立つ.
1)
2)
に対し,
3)
ここから、以下が従います.
さて、我々が採用した選択公理のStatemnetは以下でした.
Axiom of Choice |
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これは先程の商集合の性質と照らし合わせると、 というある同値関係で割られた商集合には,その完全代表系のなす集合が存在するという意味になります.
この命題は商集合側でとっていますが,実際使う際は以下の選択公理と同値な定理として使われることが多いです.
Theorem |
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ひとまず,選択公理から上の定理が従うことを示します.
proof:
に対し, 上の同値関係 を を として定めます. 実際,反射律、対称律、推移律を満たすので、同値関係になります. この時同値関係の定め方から, となるので,選択公理より
は集合になる. この時作った から欲しい選択関数 が得らること示す. これは,任意の に対して,ただ一つの が存在し, となればいい. の作り方からもし任意の に対し, となる がただ一つ存在することが言えればよい, それは の定め方から成り立つので、求める選択関数の存在がいえた.
先ほどまでで選択公理に関する準備が終わりました. ここからが本番です, まずは順序数が十分たくさんあることを証明します.
Theorem(ハルトークスの定理) |
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を任意の集合とした時.ある順序数を一対一の関数が存在しないようにとれる |
証明の方針
- 任意の集合 に対し、その整列可能な部分集合全体 は空集合でない.
- の元の順序型全体のなす集合は順序数の推移的集合
- 順序数の推移的集合が順序数であること
- 順序数から単射があると,その像は整列集合として構造が可能であること
- 順序数には自身が属さないこと
証明: に対し, , は整列集合を定める関係
とします.
の各元は整列集合なので,それに対応する順序型 が存在する.
は冪集合の公理と分離公理より直積集合が存在し,そこから制限することで集合であることを示せる. さらに置換公理により
は集合になる.さらに,定義から かつ, なら, の始切片と が同型になるので, となる.よって, は順序数の推移的集合になるので,順序数となる. もし, から への一対一の関数 が存在したとすると,それから は のもつ順序構造から誘導される順序構造をいれることで,整列集合となる.この時 の順序型は となり,特に となる.これは順序数の性質と矛盾する.よって一対一の関数が存在しない順序数は存在する.
上の定義から,任意の集合に対し,それへの一対一対応が存在しない順序数 の存在が示されました. そこで順序数 の部分集合 から への一対一関数が存在しない は順序数の定義から最小限を持つので,以下が定義できます.
Definition |
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集合に対し,一対一の関数が存在しない最小の順序数を と書き、 ハルトークスのアレフ という |
この章のメインの定理を証明します.
Theorem(ツェルメロの整列定理) |
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任意の集合は整列順序付け可能である |
証明の方針
- 集合
に対し,順序数全体から
への写像
で以下を満たすものを超限再帰をもちいて構成する.
かつ の時,
かつ の時,
ある について かつ なら
3.となる最小の を定義域として制限すると は全射
- 選択関数から で となるものを構成できる.
関数 を以下で定める.
となる時
それ以外の時,
超限帰納法から が上の1.~4.を満たす.
- 1.2.は写像の定義から を使うといえる.
- 3.は存在しないと が単射になることとハルトークスの定理が矛盾
- 4.は全射でないとすると の定義から となるので矛盾.
- ハルトークスの定理から任意の集合 に対し,ある順序数 が存在し, への一対一写像が存在ないものが存在する.
証明 集合 が与えられたとする.集合全体は真のクラスになるので. に属さない集合が存在する. 仮にそれを と名付ける.選択関数の存在から, で となるものが存在する. そこで関数 を以下で定める.
となる時
それ以外の時,
これを超限再帰を使って と定める. この時、この関数 は以下の性質が成り立つ
かつ の時,
かつ の時,
ある について
この時3.より, となる最小の順序数 が 以下に存在する. とすると, と は同値なので, fの終域は となる.さらにもし とすると, なので,特に の部分集合でないので, となり, に矛盾する.したがって であり, は と との間の全単射である. よって は が誘導する順序構造をいれることにより整列順序づけ可能である.
の作り方がかなりトリッキーで証明を追えば正しいことは確認できますが、どうやってこれを思いついたのか気になるものですね.
集合の対等生
この章では対等生にまつわる集合の有名な定理を証明します. ベルンシュタインの定理はその中でも最たるものです.
Definition |
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集合と集合に全単射の関数が存在する時,と書き,とは 対等 といいます.また集合から集合への単射が存在する時,と書きます |
Theorem |
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かつが成立する時となる |
証明の方針
- を単射とし, とする.
- [tex: {a_n = g``b{n-1},b_n = f``a{n-1}}] とする.
- (= a^*)は全単射であり,
逆に の時, は全単射となる.の時
の時
の時
さらに, は全単射.
- 上3つをうまく使い の全単射と が全単射を使うことと と分割でき, を以下で定める.
の時
の時
の時
この時,それぞれが全単射となるので,全体でみて全単射にんる.
Theorem |
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任意の2つの集合とに対し, かか少なくとも一方が成立する. |
proof 整列可能定理より と はそれぞれある順序数 に対し、全単射 が存在する. 順序数の場合 ならば なので, は一対一になる. なら が一対一写像になる.
この定理も選択公理が必要.
Lemma |
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全ての自然数に対し, |
proof より, となる. で単射となるものが存在しないことを示せばよい. は射が存在しないので, 成り立つ. に単射が存在しない仮定して, を任意の関数とする. を と を置換する写像とする.すると は全単射であり, より, が単射と仮定すると, はwell-definedであり,単射となるので,矛盾.
Definition |
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集合があるの元と対等となる時,有限.有限出ない時 無限 という |
選択公理を認めるとデデキント無限と無限が同値になる. デデキント無限とは自分の真部分集合と全単射が存在すること.
Theorem |
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すべての集合に対し,となる |
proof: は単射なので . に全射が存在しないことを示せばよい. とし, とすると. であり, の任意の要素 について, よりある に対し, とすると となり,矛盾する. よって任意の に対し, となる.矛盾する.
基数
Definition |
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集合と対等な最小の順序数をと書き,の 濃度 という. |
Lemma |
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次の1)-5)が成り立つ 1) 2) 3) 4) 順序数に対し, 5) |
proof
1) より→は言える。逆は明らか. 2) なら なので, となる.逆に とすると, から への単射存在ない.もし存在したとすると から への単射が存在し,仮定に矛盾するので. 3) 1),2)jから明らか 4)濃度の定義から言える. 5) から への単射が存在しないので,逆に から への単射が存在するので言える.
Definition |
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基数 とは自分より真に小さい順序数と対等にならない順序数のことである. |
Lemma |
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次の1)-5)が成り立つ 1) 自然数は全て基数 2)最初の無限順序数は基数 3) 基数ばかりを要素とする集合の最小上界は基数 4) 全ての集合に対し,は基数である. 5) 全ての集合に対し,は基数である. |
proof 1) より, から への一対一の関数は存在せず, からそれ未満の自然数への全単射も存在しないので,基数 2)もし と対等とすると から への単射が存在し, から への単射が存在することからベルンシュタインの定理で と が対等となり, と が対等となるので,矛盾. 3) に極大元が存在していた場合は明らか, に極大元が存在していないとする.もし, が基数でないとすると,ある順序数 と対等になっている.それはsupは最小上界なので は上界でなく,つまり.ある に対し, となる.この時,最大元が に存在してないので, より真に大きい が存在する.この時 と からベルンシュタインの定理より, と が同型となり矛盾する. 4)濃度の最小性から従う. 5)ハルトークスのアレフの定義から より真に大きい最小の順序数なので,最小性から基数になる.
ハルトークスのアレフは順序数 に対し,それより真に大きい最小の
Lemma |
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1)基数と順序数についてならである 2)順序数とに対し,とは同値である. |
proof 1)は は基数なので, となる.よって と対等な順序数は全て より真に小さい. 2) なら明らかに成り立つ.逆に とすると,もし とすると, が より大きい最小の基数であることに矛盾する.よって, となり, となる.
Lemma |
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無限基数は極限順序数である |
Proof 無限順序数 に対し, と が対等であることを示せば良い. を以下で定める.
の時,
の時,
の時
とするとこれは全単射なので, となる.
Definition |
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全ての順序数に対し,を以下のように超限再帰で定める. 1) 2) が極限順序数である時, |
Lemma |
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集合が有限でなければしたがって,である. |
proof
集合 の整列順序付け が存在するので, の順序型を とする. なら は有限になる.なので が有限でない時 となる. は基数なので, となる.
この定理は集合の整列順序可能性を用いるので,選択公理を使う.
Lemma |
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1) 全ての は無限基数 2)とは同値 無限基数は全てなんらかのについてとなる. |
Proof 1) が無限基数であることと,順序数 に対し, が基数となることと、基数のなす集合の が基数であることから,超限帰納法で示せる. 2) から超限帰納法で示せる. 3)無限基数 に対し, とする. この時 は順序数の推移的集合になるので,順序数であり, となるので, となる. もし なら, は最小の無限基数 であり, である. なら, であり, より, の最小性から となる. もし が極限順序数なら
なので, となる.
Definition |
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無限基数はとかける時, 後続型基数 と呼ばれ,そうでない時 極限基数 と呼ばれる |
定義から全ての順序数 に対し, は無限基数であり,( の時) が後続型基数であることと が後続型順序数であることは同値. は後続とも極限とも言いづらいものである.
Definition |
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基数に対し,の濃度をと定める.また,直積集合の濃度を積として定める |
以降では基本的には基数としての演算を扱うが,順序数としての演算と区別するときは などとかく.
Lemma |
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任意の順序数について 1) 2) |
Lemma |
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基数について次のことが成り立つ.和と積はいずれも基数の演算の意味で考える 1) 2) 3) 4) 5) 6) の時,かつ |
proof 全て具体的に全単射を構成すればいい. 1)
を とすればよい. 他も同様.
Definition |
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順序数の順序対とに対して, と定める |
Lemma |
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二項関係はの整列順序付けであり,各順序数についてはの始切片である |
Proof 真クラスに対する整列順序付けの細かいことはひとまず気にしない. 整列順序付けであることを示すために以下を示す
- 定義から言える
- なら これも具体的に試せばよい.
- 三分率,従う.
そのため,整列順序付けになっていることを示せば良い.
- 始切片が集合?
- 集合 が で最小限を持てばよい.
に対し とした時(これは整列集合なので が存在することから言える), とし,同様に の中で が最小になるもの全体を とし, の元で が最小となる元 は の最小元になるので,示せた. また, は の最小性から つまり, と同値になる.よって は と一致する.
Theorem |
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任意の無限基数について,基数の演算の意味でとなる. |
証明 順序数 に対し,整列集合 の順序型を とかくと,
が極限順序数の時,
となる. これは が の始切片であることから, は から の要素が の小さい順に 個並び, が 個並ぶことからわかる. 定義から なので,全ての無限基数について が言えればよい. まず任意の順序数に対し, となる. の時,[tex: {\tau_2(n) = n2}] より, となる. を より真に大きい基数として, 未満のすべての無限基数 に対し, が成立していると仮定する. すると,順序数 には となるので, が 未満の無限順序数の場合,帰納法の仮定から となる. このことから, となるので, となる.
連続体仮説
とかく.
Definition |
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基数に対し,を基数としての指数関数と定める. |
Lemma |
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任意の集合に対し, |
証明 に対し,特性関数 を
- の時1
- の時0
で定める.すると は を定める. これは全単射である.単射は とすると が存在すると思ってよい(必要であれば と を取り替えればよい).この時 となるので,単射となる.全射は に対し, を とした時 となるのでいえた.
Lemma |
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実数全体のなす濃度は |
proof を
と定める.すると の時, となる の最小値を とする. 今 とし であり, となるので, となる. 一方で, を の整数部分が奇数 と定める.これは単射である.それは,もし とすると, となる最小の に対し, より,単射となる.
また, が単射なので,ベルンシュタインの定理より, よって,実数全体の濃度は となる.
Theorem |
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全ての基数。に対し,|カントールの定理から任意の集合に対し,その冪集合への全射はなく,またうえで示した補題より,から従う. |
Statement(連続体仮説) |
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これは示せるのか??全くわからない!!!!!!!